「こどもごちめし」って知っていますか?
こどもごちめしとは、地域の飲食店を子ども食堂として利用できるようにして、その飲食店を起点に子どもの居場所をつくり、街の未来を育む食堂サービスです。
この活動が評価され、こどもごちめしは2023年度グッドデザイン賞を受賞しました。
審査員コメントはこどもごちめしを次のように評しています。
「各地の子ども食堂の抱える持続性における問題を、既存の社会アセットを組み合わせながら、関わる人達に無理がないかたちで実現するという快挙を成し遂げた」
「快挙」という評価! すごいことを実現したんですね。
こうして人気と注目度が上がり続けるこどもごちめし。始めたきっかけや、仕組み、今後の展開など、運営するNPO法人 Kids Future Passport(キッズ・フューチャー・パスポート)の代表理事・今井了介さんに聞いてみました。今井さんは作曲家・音楽プロデューサーで音楽業界でも活躍。安室奈美恵『Hero』やTEE/シェネル『Baby I Love You』などを手がけています。

──こどもごちめしを始めたきっかけを教えてください。
今井了介さん(以下省略) 音楽に関わる仕事を20年以上携わってきて、畑違いの「食」の事業に関わるなんてまったく考えていませんでした。
ところが2011年の東日本大震災を機に私の考えが変わりました。音楽をはじめとするエンタメや、スポーツは誰かに勇気や元気を与える素晴らしい力があることは今も信じています。でも、大きな災害を目の前にして、それらは瞬間風速的には無力なのではないか…と感じました。やっぱり被災地で最優先するべきは生きること。つまりは衣食住です。身体のエネルギーになる食事や、寒さをしのぐ衣類、心の安定につながる住居、さらには場所によっては移動や運搬のために車も必要です。
そうして、生きるエネルギーになる「食」に注目し、音楽に携わってきた私たちでもできるような食にまつわるプラットフォームが作れないかなと思ったのが最初のきっかけでした。
──こども食堂は年々増えていますが、抱えている問題はどんなことでしょうか。
現在、高校生以下の子どもの6人に1人が相対的貧困と呼ばれています。給食だけがバランスの取れた唯一の食事になってしまっているという家庭も実は結構あるんです。そういう環境の子どもたちは人口にすると200万人以上と考えられています。
そうした問題に対応しようと「こども食堂」が増加し続けています。それはとても良いことなのですが、こども食堂はボランティアによって運営されていることが多く、人手や資金、場所の確保に問題を抱えています。毎日の開催は不可能です。そのため、こども食堂の開催は月1回とか週1回などが多く、子ども食堂があっても200万人以上の子どもたちのお腹を満たすにはまだまだ食事の提供が足りません。
子ども食堂は非常に素晴らしい活動であるし、ぜひ続けてほしいけれど、子ども食堂に頼っているだけでは約220万人の子どもたちを救うことは難しいのです。


NPO法人全国こども食堂支援センター調べ
──こどもごちめしの仕組みを改めて教えてください。
こどもごちめしというのは、まずキッズ・フューチャー・パスポートが運用していく基金を集めるための受け皿になります。
支援者からの寄付を財源として運用します。こどもごちめしのサイトに飲食店が登録し、こども食堂としての役目を担います。子どもたちは登録された飲食店のなかから好きな店に行き、無料で食事ができます。この食事代が寄付で賄われるという仕組みです。さらに現在提案しているのが企業版ふるさと納税などで節税対策として、あるいは自治体ならふるさと納税や補助金などを活用してこどもごちめしに関わっていただくのも一案だと思っています。
利用する場合、まずは親御様もしくはお子様(中学生以下)がスマホでユーザー登録を行います。
ログインすると近隣の登録飲食店が表示されるので好きなお店を選びます。お店に行ったらスマホの中のチケットを店舗に見せると、1000円以内の食事が無償で提供されます。店舗で利用したデータは管理されているので、例えば1カ月間で1000円の食事が10食提供されたとすると、1万円が私たちの基金から店舗に支払われます。飲食店側に手数料はかかりません。
寄付をする側は支援地域を選べます。とある企業が地元に貢献したい場合は、寄付の運用を希望の地域に限定することもできます。支援企業にとって地域の飲食文化の活性化、飲食店の売り上げにも貢献できます。地域創生っていう意味では地域の人たち、子どもたち、それから経済にメリットがあると考えています。
飲食店に限らず、お弁当屋さんやスーパーなどのテイクアウト系の食事のご支援も可能です。現在、たくさんの問い合わせをいただいています。

──利用する子どもたちやご家庭からどのような感想、ご意見がありますか?
よく聞こえてくる声の中で、なるほどなぁと感じたのは夏休みの食事についてです。先ほども話しましたが、栄養バランスが取れた食事は給食でしか食べれていない子どもが結構増えてきているなかで、夏休みは親御様にとっては大きな負担となります。
夏休みの40日間、子どもたちの 食事を3食作らなきゃいけない。お弁当を作るのも大変ですし、ご飯代を渡しても子どもたちはマンガやお菓子、ジュースに使ってしまったりする。子どもだから仕方ないんですけど、どうしたら栄養バランスがとれた食事を子どもたちに提供できるのか。そんな悩みを抱えている親御さんから、「こどもごちめしがあって助かりました」と言われます。
困窮家庭だけでなく、共働きの忙しい親御さんのお役にも立っているのは嬉しいですね。
──現在までの子どもの登録数と提供食数を教えてください。
子どもの登録者数は現在1507名です。毎日数十名から100名近くの登録が増え続けています。食事の提供数は2020年から現在まで、実証実験含めて3万6,903食になります。(6月24日現在)

──子どもさんや親御さんに「こどもごちめし」をどのようにPRされているのでしょうか?
SNSをはじめ、シングルマザーの方々がやっているコミュニティでお話させていただいたり、あとはこうして取材いただきメディアからの発信で知っていただく機会を得たりしています。
認知度はまだまだです(笑)。このNPO法人は去年の7月に立ち上がったばかり。1年も経ってないのでやるべきことはたくさんあります。ただ、広まるスピードは速い方だと思います。それだけに皆さんが必要だと感じている、ニーズのある仕組みなのかなって思います。
──子どもたちから「こんな飲食店で食べたい」など要望はありますか?
子どもは、ファストフードとかラーメンとか食べたいんじゃないですかね(笑)。僕らは、それもいいけど、親御さんの立場だったらね、お野菜とかなるべく摂っていただけるような食事が良いでしょうから、子どもたちの要望を叶えるかどうかは悩ましいところではありますね。
ただ子どもたちの無邪気な意見はいつでも聞きたいですね。
──今後の抱負を教えてください。
こどもごちめしの仕組みは、とてもサステナブルであると思っています。
こどもごちめしは、支援者の方々による子どもたちへの支援、子どもへの気持ちとか、そういった善意があってこそ成立するものなので、より多くの企業や自治体に賛同いただいて仕組みを太く強くしていきたいですね。
今井了介さん、ありがとうございました。
こどもごちめしを利用したい方、支援したい方は、こちらのホームページへ。
こどもごちめし – 地域の飲食店をこども食堂化し、こどもの居場所とまちの未来を育むサービス (kodomo-gochimeshi.org)

作曲家・プロデューサーとして安室奈美恵『Hero』やTEE/シェネル『Baby I Love You』などを手がける。
有限会社タイニーボイスプロダクション 代表
Gigi株式会社 代表取締役
おわり