こんにちは。今日は動物の「うんち」に関連したSDGsの取り組みをしていると聞いて、東京シティ競馬で知られる大井競馬場にやってきました。
案内してもらったのは競馬場敷地内の一角にある「KID SYSTEM」(キッドシステム)という機械です。
これは、大井競馬場で生活する馬たちが排出する馬糞(うんち)や、使用済みの敷料(きゅう舎で使用する藁やおがくず、もみ殻などの混合物)を微生物で処理する、環境に配慮した有機物処理機です。
大井競馬場では以前からSDGs活動に積極的に取り組んでおり、これまでもきゅう舎から出た馬糞などは、千葉県の船橋市や市川市で栽培されている人参や梨の堆肥として、このほかにもマッシュルーム栽培の菌床として活用するなど、リサイクルを原則として処理していました。
では、なぜ最新機械を導入したのでしょうか?
大井競馬場のスタッフさんに聞いてみました。
「馬糞は農家さんに活用していただく形で処理していましたが、季節によって農家さんからの需要に変化(増えたり減ったり)があります。そのための処理量が不安定となっていました。そこで、これまで通り農家さんでの活用と、プラスしてこのKID SYSTEMの運用により安定した処理を目指すため2023年9月に導入しました」
KID SYSTEMとはなんだ!
では今回導入したKID SYSTEMはどんな機械なのでしょうか?
製造する日本発酵の常石剛平さんが答えてくれました。
「KID SYSTEMとはかくはん機(かきまぜる機械)と微生物でゴミを処理するシステムのことです。ここで処理できるのは、馬糞はもちろん有機廃棄物です」
有機廃棄物とは、生ゴミや汚れた水や泥、人間や動物の糞尿、死骸などを指します。
マジックのタネあかし⁉
処理の仕組みを順を追って説明しましょう。
①微生物の住むところを作る
かくはん機の中にあらかじめ菌床(おが屑くずで作成した土のようなもの)という微生物の住処(すみか)をセッティングします。
②微生物に空気を供給する
菌床の中にいる微生物も人間と同じで活動するために空気が必要です。そこでかくはん機で菌床をかき混ぜることで微生物に空気を供給してあげます。
③微生物にご飯をあげる
次に微生物が活動するための餌(ご飯)が必要になります。微生物にとっての餌は、馬糞などのほか、私たち人間が社会活動を行う上で発生している有機廃棄物になります。かくはん機の中に餌となる有機廃棄物を投入してあげます。
④ご飯を食べた微生物が馬糞を消す!
人間が食事をすれば排尿や排泄するように、微生物も同じで、食べれば排泄します。人間の場合、大小便を出しますが、微生物の場合は食べた有機廃棄物を水蒸気や窒素、炭酸ガスなどに分解して排泄します。
こうして処理された馬糞などの有機廃棄物は99%以上が水蒸気や窒素などに変わり、消えてなくなってしまいます。しかも焼却処理と比較しても92%以上の二酸化炭素削減につながって、ダイオキシンのような有害物質も発生しないほか、給水や排水を必要としないため下水汚染の問題もないとのこと。
うんちが消えてなくなってしまうなんて……まるで魔法のようです。究極のSDGsマシーンですね。
【馬糞処理までの流れ】
どんなことに活用できるの?
このKID SYSTEMは活用することで主に次のようなSDGs的に良いことがあります。
1)焼却処理と比べて温室効果ガスの削減ができる
焼却処理と比べて二酸化炭素の発生量も大幅に削減し、燃やさないのでダイオキシンは出ません。さらにKID SYSTEMはゴミが出る場所に設置して、その場で処理できるので、自動車で収集運搬の必要がないため排気ガスの発生も無く、交通事故の危険性も無くせます。
2)埋立地の延命
ゴミ処理施設で処理された焼却灰は埋立地に埋められています。ただ埋められる場所には限りがあり、一説では20年後には国内の埋め立てる場所がなくなるという声もあります。KID SYSTEMの処理は99%以上が消えてなくなってしまうので埋める必要もなくなり、埋立地の寿命を延ばすことができます。
3)投入した廃棄物を頻繁に取り出す必要がない
有機廃棄物処理機には様々な種類がありますが、投入したゴミを微生物だけでしっかり分解できる商品は多くはありません。分解が十分にできない商品の場合、放っておくと機械がゴミで溢れるので頻繁に取り出さなければいけないし、取り出したモノは別の方法で処理しなければいけません。KID SYSTEMの処理は99%以上分解するのでゴミを頻繁に取り出す必要はありません。
4)ゴミ由来の堆肥の供給過多の解消
実はお話を聞いて、この解説に「なるほど~」と感心してしまいました。現在の世の中は循環型社会を実現させるため、生ゴミを堆肥化する企業が増えてきています。ところが実際には堆肥の引き取り先が見つからず、結局は使用されないままになっており、処分に困っているという企業が多いようです。ここ数年で、堆肥を処理して欲しいという依頼が(日本発酵に)多く寄せられるようになったといいます。堆肥化の方法を見直さなければ、今後さらに堆肥の処分に困る企業が増えることになると思います。
現に大井競馬場でも、これまで農家さんに活用してもらっていても、農家さんだって必要な量以上を引き取ることはしません。
KID SYSTEMの消滅処理はこうした問題を解決するための糸口になると期待されているのです。
KID SYSTEMをいち早く導入した大井競馬場のスタッフさんはどのような感想を持っているのでしょう。
「機械への(馬糞などの)投入方法などに課題はありますが、ゴミを減らすという視点では、(環境的に)有用な機械だと考えています。安易にゴミを処分できない船舶や災害場所への設置が有効な活用法ではないかと思います」
ゴミが消えてなくなるって、夢の処理システム。いろんな場所で活用できそうです。
みんなで考えよう!
ではみなさんに質問です。
QどんなところにKID SYSTEMを設置したいですか?
答えは日本発酵の常石さんに例を挙げてもらいました。
A
食品工場
レストラン
卸売市場
ショッピングモールのフードコート
スーパー
スポーツ観戦ができる場所の売店
テーマパークのレストラン売店
社員食堂
各家庭
給食センター
動物園
災害現場でのトイレとして活用
以上です。
どれも良い提案ですね。まだまだ活用できる場所はありそうです。ぜひとも設置してもらいたいです。
そして最後の「災害現場でのトイレ」は意外な活用法でした。
「KID SYSTEMは生ゴミだけでなく、人間の糞尿も処理することができます。自然災害が発生した場合、避難所で問題になるのはトイレ問題です。衛生面が担保されず、水も使えず、感染症の原因にもなり、気軽に用を足せないことから体調不良の原因にもなります。災害が発生した場合、ライフラインが復旧するまでに一番時間がかかるのは水道です。水道がなければ便は流せません。給水も排水も必要のないKID SYSTEMを活用したトイレは、排泄物が分解され匂いが発生することもありません。必要なのは電力のみ。どこでも設置できます」(常石さん)
このお話、とても興味がわきました。この機械が一人でも多くの困っている人の助けになりますように。願うばかりです。
現在、大井競馬場で稼働しているKID SYSTEMは、大井競馬場から排出される馬糞などのうち1 日あたり約100リットルを処理することが可能で、良好な運用状況が確認でき次第、本格的な導入(処理量の増)を目指しているほか、場内の飲食店などからでる生ごみの処理にも活用を見込んでいるのだそうです。
このKID SYSTEM。今後は全国津々浦々、さらに海外へ広く活用されることが期待されています。
みなさんの街にもいつか現れるかもしれませんよ。
馬を見学できる楽しい取材でした。
レポートは以上になります。
もっと興味ある人はこちら。
日本発酵のホームページです。
おわり