今回は東京・日本橋にやってきました。
日本橋は、江戸時代に城下町として成長した街。商人や職人が集まり、大きく発展しました。その後、明治、大正、昭和、平成、令和と時代は変わっても、それぞれのお店は暖簾という形で代々受け継がれたり、ある店は会社になったりと、さまざまな変化を経て、今なお商業地として成長を続けています。
また、街のシンボルとして知られる「日本橋」は五街道(東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道)の起点となっていることでも有名です。
そんな歴史ある街で、2022年11月5日から12月10日までSDGs関連のイベント「日本橋 秋のサステナMonth 2022」が開催されました。
どのようなイベントかというと、
江戸時代の日本橋から学び、現代に生かし、未来へつなげようというもの。
そもそも江戸時代の暮らしは衣食住のどんな場面でもリサイクルやリユースが行われ、無駄のない循環型のくらしを実現していました。なかでも江戸の中心地である日本橋は多くの人が集まり、その理想的な暮らしを実践していました。今に言いかえると、日本橋の人たちは都会型生活の最先端な暮らし、SDGs生活をしていたのです。
そんな日本橋の「江戸の暮らし」をヒントに、今のSDGsな暮らし方につながるものとして、さまざまな趣向のイベントが行われました。例えば、「循環」をテーマに実践している出店者が集うマルシェイベントや、聴覚障害のあるスタッフのもとで身振り手振りで対話を楽しむトークイベント、「未来のお仕事」を考える子ども向けワークショップなど、楽しみながらSDGsを体感できる催し物が盛りだくさん。
そんな魅力的なイベントのなかで取材にお邪魔させてもらったのは、日本橋室町三井タワーのけやき広場で行われた「対話の樹」です。
このイベントは基本的に鑑賞を主とする展示コーナーで、これに来場が参加することによって、未来につながる“作品”が完成するという、とても興味深い内容でした。
会場のけやき広場の中心には推定樹齢200年の大けやきがそびえます。このけやきを“菩提樹”のように見立て、周りに6種類のキーワードが「ヒントの実」として成っています。来場者は「ヒントの実」を鑑賞して、その実に提示された「問い」に対して、SDGsな未来へつなげるための身近な事柄を考えて「答えのシート」に意見を書いて投稿します。この「答えのシート」は、「ヒントの実」にぶらさがり、さらに実を大きくします。こうして多くの参加する人の声が増え、「ヒントの実」がタワワに実ることで、未来へつながる菩提樹としての“作品”が完成するのです。
来場者は参加することはもちろんのこと、タワワに実った「答え」を鑑賞することも楽しめるという演出です。
さらに興味深いお話を聞いたのはキーワードについて。
スタッフさんによると、ここで挙がった6種類のキーワードはすべて日本橋に関連する言葉だと聞きました。
江戸時代から栄えた日本橋には、当時から続く老舗の店舗や会社が多くあります。なかには創業300年を超える老舗もあるんです。
その一方で、日本橋に店舗を構えれば、どの店も常に商売繁盛するわけではありません。老舗は偶然に続いたのではなく、それなりの理由があって現代まで続いてきたのです。
つまり、時代が移り変わっても、生き抜いてきた店舗には、何か秘訣や心得があるのかもしれません。それを知ることは私たち現代人の生き方、さらにはより良い未来へつなげるヒントになるに違いない。
過去から未来へつなぐ持続的活動って、これこそSDGsですね。
そんなきっかけで、スタッフさんは日本橋の老舗に直接訪ねて聞き取りをはじめます。
すると、それぞれの店舗に代々受け継がれる、社員たちが大切にしていること(言葉や決意、考え方、心得)があることがわかりました。そんな大切にしていることの一部をキーワードとして選んだのが今回の6種というわけです。
さすがは老舗が大切にしているだけに、良い言葉が並んで勉強になります。
では、どんなキーワードがあるのでしょうか。気になる6種類の「ヒントの実」と「問い」を見てみましょう。
みなさんなら、キーワードを見て何を感じ、自分ならどんな答えを書きますか?
実際に書かれた答えの一例も挙げますので、あわせて楽しんでください。
キーワード1
キーワード2
キーワード3
キーワード4
キーワード5
キーワード6
キーワードはとっても勉強になるし、答えもいろんな考えがあることがわかってとても面白いです。
スタッフさんが見つけたなかには、こんなこともあったそうです。
あるとき、「さじ加減」の答えに一枚の小学生が書いたシートがありました。そこには学園生活の人間関係についての悩みごとが書かれていました。そして、その下を見ると「大人に相談しましょう。味方はいるよ。職業・先生」と書かれたシートがつなげられていました。
ここは「対話の樹」。参加者同士でも間接的に対話が成立していました。顔をあわせてはいないけど、あなたを助けたいという気持ちがよくわかる、心温まるエピソードです。
意図しなかった演出というか、思いがけない展開にスタッフさんはとても心がほっこりしたんだとか。
このほか、見どころはまだあります。
それぞれのキーワードに描かれているキャラクターにも実は意味があります。
テーマである「対話」にちなんで、誰かと誰かが対話をしている絵が描かれています。ただし、対話しているのは人間だけとは限りません。
「人ならざるもの」との対話が大切ですよ、というメッセージが込められています。
何が描かれているか解説しましょう。
「精精神性への共鳴」のパネルには森と人間
「品を修める」のパネルには未来人と人間
「傾聴力/想像力」のパネルには動物と人間
「さじ加減」のパネルには海と人間
「二人三脚」のパネルには過去(先人)と人間
「世間良し」のパネルにはなんとウィルスと人間
この場合の対話とは、ただ会話をするという意味だけではなく、「相手を知る」、「理解する」、「寄り添う」、「配慮する」、「折り合いをつける」などの意味も含んでいます。さらっと描かれていますが、とても大切なメッセージを発信しています。
カンの良い人なら分かったかもしれませんが、この対話の相手ってSDGsの目標の実現にも関連することです。
本当によく考えられたイベントだと思いました。
スタッフさんの感想です。
「開催して良かったと思っています。今の段階で200名以上が参加してもらって、当初はこんなに書いてもらえるとは思いませんでした。予想以上の反響です。私たちも実際に問いに対して答えを書いてみたのですが、深く考えすぎてしまって、すぐに書けませんでした。それなのに、ここに参加された方々は来場して、スラスラと素直な想いや、素敵な言葉を書いてくれました。そのシートをつなげて後から訪れるゲストが鑑賞して心を和ませてくれました。そうしていろんな人がつながって、このイベントが盛り上がったのだと思います。本当に感謝しかありません。書くという行為はは、行動の第一歩だと思っています。みなさまの未来へつなげる何かのきっかけになればと祈っています」
ご協力ありがとうございました。
「対話の樹」を含めて、今回のイベント全体についてもっと知りたいという方はこちらへ。
いろんな人の意見を聞き、新たな考えを知ることはとても大切なことだと感じた一日でした。
またレポートします。
おわり。