イノシシ、シロチョウザメ……
一般には出回らずに捨てられてしまうことも多い害獣や未利用魚をおいしい食材として提供
日本社会の“食問題”を、食べることで学ぶ!
「株式会社CRAZY KITCHEN」代表の土屋杏理さんに、
フードロスや環境保全に取り組むケータリングサービスについて、お話を伺いました!
パーティや宴会、イベントなど、お客様が指定した場所に出向いて調理や配膳、運営まで行うケータリングサービス。そんなサービスに、“おしゃれで楽しい”独自のブランドを築き上げたのが、「株式会社CRAZY KITCHEN」代表の土屋杏理さんです。
2015年に「株式会社CRAZY KITCHEN」を創業した土屋さんは、「食時を、デザインする。」をコンセプトに、お客様の要望に直接答えて料理を提供するケータリングブランド『オーダーメイドプラン』をスタートさせました。
「例えば、個人や企業のパーティ、結婚式には、『1年間のお疲れ様会』『商品の発表会』などテーマが組まれていますが、“料理”は、その会の趣旨に合わせたものが作られているわけではなかったんです。ブッフェの価値といえば、たくさんの種類の料理を食べ放題できることが主流でしたが、それにはたくさんの食べ残しが出てしまいます。なので、その会のコンセプトに基づいた料理を提供する“オリジナル性”に価値の転換を図りたく、オーダーメイドのケータリングを始めました」と土屋さん。事前にお客様から希望を伺い、イベントやパーティの趣旨に合わせたオリジナルの料理を提案していきました。
さらに2019年には、未利用魚や害獣などを使用したケータリングサービス『SUSTAINABLE COLLECTION(サステナブルコレクション)』を開始。かつてはキャビアを採った後に廃棄されてしまっていた“シロチョウザメ”や、害獣として駆除対象にある“イノシシ”、環境に負荷がかからずに飼育が可能な“ダチョウ”など、一般市場には出回らずに以前は捨てられてしまっていた食材もメニューに取り入れ、お客様に社会問題を考えてもらうプランを考案しました。
「チョウザメやイノシシ、ダチョウが食べられるって本当?」 今回、そんな疑問から取材にやってきたのは、子ども記者のあみちゃんとあかりちゃん。「食」を楽しむことでフードロスや環境保全と向き合う「CRAZY KITCHEN」の活動を伺ってきました!
人の命と同じように、人以外の命も大切に
――なぜ、イノシシやチョウザメを料理に出そうと思ったんですか?
土屋:まだまだ一般の消費者の皆様には知られていない食材があり、スーパーで売っていなければ知るよしもなく、「まず食べてみよう」というステージにすらいかない食材があることを、私たちも日々の活動で知っていくようになりました。
なので、例えば害獣指定されて駆除されてしまう“イノシシ”や、キャビアだけを取り出して捨てられてしまうこともある“シロチョウザメ”など、一般のスーパーではなかなか目にしない食材が、いろいろな社会問題に繋がっていて、「こういう食材があるんだよ」「その裏には実はこういうことがあってね」ということを、不意に出会ったパーティの席で知るきっかけになっていただきたい思いでケータリングサービスを始めました。
――“動物”に対して、特別な思いがあったんですか?
土屋:元々、幼少の頃から獣医を目指していたんです。子供の頃はかなりの人見知りで、人間の友達を作ることが難しかったんですね。母が動物愛護家だったので、家にはたくさんの動物がいて、地域の野良猫の保護活動をやっていて、自分の日常をともにする生き物が人間ではなかったんです。
30歳を超えたタイミングで、改めて「自分が何をしたいのか」ということに素直に向き合う環境ができまして、いつ死ぬかわからない、自分がおばあちゃんになれる保証もない中で、自分はなんのために生きていきたいのかを考えたときに、私が最も興味関心があった獣医になりたかった夢を思い出して、人の命と同じように人以外の命も大切にできる社会にしたいという思いがありました。
“食べないこと”以外の選択肢を提示したい
――この活動を始めて、世の中が変わったと思うことはありましたか?
土屋: 2015年に「CRAZY KITCHEN」を始めたときは、ほとんど認知もされていませんでした。「イノシシはちょっと……」と言われますし、フードロスにさえ焦点が当たってもいなかったんです。それが、『SUSTAINABLE COLLECTION(サステナブルコレクション)』を始めた2019年頃から、企業としても『SDGs』を掲げ始めていて、それをコロナがより後押ししたと感じますね。「電気自動車の発表会なので、サステナブルなものを頼みたいです」といったオーダーを積極的にいただけるようになったのは、ここ3年くらいかなと感じます。
私が「CRAZY KITCHEN」を始めた時代より、今は世の中の認知もすごく上がっている感覚でいます。ですが、ヴィーガンなど「(肉や卵を)食べないことが良いこと」は一つの選択肢ではあると思うんですけど、それ以外の選択肢を提示することもできるのではないかと思っていて、まずは食べて知ってもらいたいんです。パートナーの会社さんや、私たちのお料理を食べていただくお客様も含めて、多くの人の力を借りながら、「こういう現実があるんだったら、こういう選択してみよう」といかに思ってもらえるかだと思っています。
つまり、自分がなにかを食べたり知ったりしたバトンを渡していくということですね。例えば、ケータリングで『MSC』(※水産資源と環境に配慮し、適切に管理された天然の水産物の証)という言葉を知っていただいたとしたら、次、その商品に出会ったときに、それを買ってみるというアクションに繋げていただいたり、それを今度一緒に食べた人に知っていただいたりして、私たちが提供するサービスが“命の循環”を生むきっかけの一つになればと思います。
思ってもみなかったものが、将来“当たり前の食材”になるかもしれない
――子どもの私たちにも、できることはありますか?
土屋:今は、私たち大人より子供のみなさんのほうが詳しく、意識も高いと思います。『SUSTAINABLE COLLECTION』の食材は、もちろん家庭では出ないようなものだとは思うので、自分たちが知っている範囲以外の食べ物がこの世界には溢れていること、そういう価値を発見してもらえたらいいと思います。
小さい頃って虫を食べたり、花の蜜を吸ったりしていたと思うんですよ。でも、大人になると急に食べられなくなる。そういう部分も臆せず、日常的に「これが当たり前だよね」とされている以外のものが、将来、“当たり前の食材”になる可能性を発見してくれると思います。今あるものだけに満足せずに、チャレンジして食べてみることをぜひ期待したいなと思っています。
――最後に、社会に向けたメッセージを教えてください!
土屋:まだまだ知られていない食の価値と、それにまつわる裏側の諸問題を楽しく知ってもらいたいと思っています。「知ることって楽しい」と思ってもらえる要素として『食』は強いと思っています。例えば、「ボランティアがすごく楽しかったら、レジャー施設でなくボランティアに行くはずだよね」ということがあると思うんです。その『楽しい』という要素を『食』は強く持っていると思うので、楽しい食事のシーンをきっかけに“知らなかった世界”を知って、“より良くしていく一歩”を見出すきっかけになれればいいと思っています。私たちはそういうきっかけを、エンターテインメント性をもって発信し続けていきたいです。
まだ広く知られていない食材を紹介しながら、お客様に社会問題を知ってもらうケータリングサービスを届ける土屋さん。おしゃれでおいしいさまざまな料理を見た子ども記者のあみちゃんとあかりちゃんは、「すごい!」「食べてみたい!」とワクワクしながらお話を聞いていました。私たちに最も身近で楽しい“食”という観点から、今一度“命”について考えてみませんか?
株式会社CRAZY KITCHEN
住所:東京都品川区中延6-3-17
TEL:03-6426-6280